伊藤學賞:三木 千壽 氏
東京都市大学 名誉学長
三木千壽氏は、1972年に東京工業大学助手として採用されて以来、約50年にわたり一貫して鋼橋の疲労に関する研究に従事されてきました。当時、鉄道橋では疲労設計が当たり前に行われていた一方、道路橋では疲労は起こらないと広く認識されていた中、道路橋への疲労設計の必要性を早期に訴え、供用中の橋梁で発見され始めた疲労損傷に対して、損傷メカニズムの解明や疲労強度向上のための設計手法の開発に取り組まれました。あわせて、疲労損傷の非破壊検知技術、補修・補強技術の開発と体系化にも尽力されました。これらの成果は著書や学術論文等により公表され、土木学会賞をはじめとする多くの受賞によって高く評価されています。また、疲労設計法は道路橋示方書や便覧などにも取り込まれ、実務への適用が進みました。
鋼橋事業の発展への貢献に対しては、氏の研究人生が本州四国連絡橋事業とともに歩んだと言っても過言ではありません。1970年に事業の着工が決定され、多くの鋼長大橋において高度な設計・製作技術が求められる中、特に瀬戸大橋では道路鉄道併用橋であるがゆえに高い疲労強度が必要とされました。調質鋼弦材角継手の製作・溶接技術の開発および技術指導を通じて、事業の完成に大きく貢献されました。また、都市高速道路橋梁において深刻な課題となった鋼床版疲労や鋼製橋脚隅角部疲労に対しても、損傷探知技術の開発、補修・補強技術の整備、耐久性向上構造の提案などによって安全性の向上に寄与されました。
土木学会、日本鋼構造協会、日本道路協会などにおいて委員・委員長を歴任され、構造工学、鋼構造学、橋梁工学分野における研究・技術開発の推進と学協会の運営に貢献されました。さらに、国土交通省、地方自治体、高速道路会社、鉄道事業者、学協会に対して技術的助言を行い、鋼橋事業の進展を支えられました。
大学では多数の学生・留学生を指導され、学位取得者の輩出に尽力されました。海外の大学との連携を通じて、学生の交換留学や海外授業の開講などに取り組まれ、構造工学分野の国際化を推進されました。とりわけ、アジア地区の大学間における模型橋梁コンペティション(通称:アジアブリコン)を創設されたことにより、学生の鋼橋への関心を喚起し、国際交流の促進を図り、国際的視野を持った将来の橋梁技術者の育成に貢献されました。
このように、長年にわたる研究と実績を通じて、鋼橋の設計、製作、補修・補強技術の分野において顕著な業績を築かれ、日本の鋼橋技術の進歩・発展に多大な貢献を果たされました。