私たちの生活の基盤であるインフラストラクチャーの中で、橋は都市や田園の景観に大きな影響を与えてきました。長年供用され年輪を刻んだ橋は、田園や都市における歴史、文化の構成要素として人々の快適性に深い関わりをもつ人工景観を創り出しています。これは、近年、全国各地で長年に亘って、もっぱら交通の利便性確保の役目を担ってきた橋を、なんとか遺せないかといった声が出てくることとも通じるものがあります。
土木構造物としての橋の基本的な機能は、効率的かつ安全に障害物を越えて交通を確保することであり、その建設、維持は公費によってまかなわれるために、さらに経済性が問われてきました。協会が「新しい鋼橋」を開発し、その普及に努めてきたように、安全で長持ちのする橋を経済的に実現する技術の追求は、これからも橋梁関係者に付託された役割であると思います。
この一方では、新設、既設を問わず鋼橋に対する社会ニーズが、近年従来の枠を越えつつあることも認識しなければならないと思います。橋をはじめ道路、鉄道、ダム、堤防といったインフラストラクチャーは、災害から人々の生活を守るという生存、利便性確保の手段の域から、さらに人々の精神的な快適性まで関与するものであり始めています。これが、新たな機能としての鋼橋の景観・歴史・文化的側面です。鋼橋建設、維持という事業に関わることは、社会の利便性に寄与することと同時に、橋が建設され供用される地域社会の文化にも関わるということになると思います。
塩野七生のローマ人の物語]によれば、道路を建設し、セメントを発明し、アーチ橋を架けわたしたインフラの父ともよぶべき古代ローマ人は肝心なインフラストラクチャーという言葉を持たなかったそうです。なぜかと調べて探しあてた言葉が、「人間が人間らしく生活をおくるために必要な大事業」ということだそうです(アンダーライン筆者)。これによれば、インフラストラクチャーとは、人々の生活に必需な衛生的で十分な量の水を確保し、帝国の隅々まで交通、通信網をいきわたらせることにとどまらず、それらを使い込むことを通じて人々の快適性や文化の領域まで関わるものであったことを示していると思います。鋼橋の景観・歴史・文化的機能とは、これに相当するものです。

図 あらたな機能としての景観・歴史・文化的側面 |
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ソルフェリーノ歩道橋(パリ) |
ミレニアムブリッジ(ロンドン) |
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ハンガーフォード歩道橋(ロンドン) |
ハンガーフォード鉄道橋と橋脚 |
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ウェリントン橋(ダブリン) |
ファーカルク・ホィール(スコットランド) |
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マレーシア新首都の橋(1) |
マレーシア新首都の橋(2) |
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マレーシア新首都の橋(3) |
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